どんよりとした曇り空の向こうに、急に青空が見えてきた。ちょっとグッタリとした紫陽花の横から甘いくちなしの花の香りが漂ってきた。
何年か前に作った人形を、もう一度磨いてみている。その時はそこで完成のつもりだったのだけれど、眺めていたらもう少し手を加えてみたくなった。たしかあの時は、彫り後の細かい陰影と、影によって見える表情の動きに興味があって、このあたりで手を止めておこうと思った。
今見ると、もう少しリアリティーのある表情を作ってみたいと思う。喜怒哀楽で言うと、どこでもないような顔なのだけれど、陰の感情に傾きすぎず、陽にも傾きすぎていない顔。透明で透き通っていて、ほんの少しの間、なにかを待っているような表情。
形のエッジをつけたいところ、抑揚をつけたいところを全体の雰囲気をみながら、細かい紙ヤスリで磨いている。