夕方、近くの小さな川まで散歩に行った。住宅街を静かに流れる川の両脇には、桜が満開に咲いていた。歳月を経ていい形になったそれぞれの桜の木を、芝居の役者に見立てながら歩くと、ひと際見事な主役級の木があった。ごつごつとした太い幹がねじれながら川に向かって斜めにせり出し、枝はゆったりと垂れ下がり、花びらが水の上でひらひらとゆれていた。ほんのひととき、うっとりとした気分にさせてくれた。
制作中の人形は、顔の目鼻を作りたくなる気持ちを抑えつつ、胴体にすすんだ。途中の段階でどうしても意識が顔ばかりに集中してしまいがちになるので、もっと全体の形を意識しながら、顔もすすめていきたいと思う。顔だけに語らせようとしないで、全体で語るという意識を持ちたい。どこから見てもいい表情であるように。自分のイメージの中のいい形を探している。